休診にも拘らず、すでに獣医さんは、病院に戻って待っててくれた。
診察台に載せて、羽のチェックをしたら、どこにも怪我は無かった。
良かった〜、羽が折れていたら生きてはいけない。
この子は、クチボソミズナギドリって言う名前なんだそうだ。
南風に乗って、あったかい国から来た鳥なンだけど、この強風の中を飛び続けて、疲れ果てて海まで辿り着けずに、陸に落ちてしまったンでしょう。
浜にはたっくさん、こういう鳥が死んで打ち上げられていますょ。
アホウドリに近い仲間で、向かい風に羽を広げて飛び立つコトは出来るけど、水中を泳いで餌をとるような足の形なので、陸では歩けない。
歩こうとすると甲を着いてしまうので、海でないと生きていけない。
一日も早く海に返してあげることが大切だと、獣医さんは教えてくれた。
そー言えば、そういう鳥って居る居る。
あっちで潜ったと思うとしばらく出てこなくて、突然違うそっちからプハッ!って出てくる鳥。
見てると面白いの。
そして、今まで保護した仲間に与えた豆アジの残りを出してきた。
ちょっとこの子には大きい魚なんだけど…って言いながら、口に押し込んでやると飲み込む。
注射器で水を飲ませて嚥下を確認する。
3匹食べさせると、プリッとフンをする。
食べたら出る、単純な構造だ。
うまくバランスをとって立てないので、なるべく狭い箱に入れて、保温して暖かくしてあげて下さい。
ペットボトルにお湯を入れた湯たんぽが良いです。
明日の午前中に波の無いところまで持って行って、海にホーチョーしてやってください。
ボクは、今朝もホーチョーしたンだけど、浜辺に行ったら友達が波乗りしてたから、ちょっとちょっと!って呼んで、「コレ、沖まで行って放してくれる?」って箱を頼んだンですょ。
箱を渡された友達、「え〜!何が入ってンの〜?」って聞いてたけど、沖に行ってのお楽しみ!って言って。
豆アジの餌も貰い、ミズナギドリのミーちゃんと帰宅する。
ペットボトルの湯たんぽを作り、バリケンの下に入れて毛布で包む。
部屋を暗くし、ゆっくり休ませて体力の回復を願う。
もしかしたら、明日の朝、死んでるかもしれません。
でもそれは仕方の無い事ですから、ね。
ホーチョーしても浮かぶことが出来ずに沈んでしまうようだったら、その子は生きていけません。
可哀相だけど、それが野生動物ですからね。
優しい獣医さんは、私の気持ちまで丁寧に気遣ってくれた。
翌朝、寝起きにすぐ、ミーちゃんをチェックする。
元気になってる!やったぁ〜!!
キティちゃん毛布にいっぱいフンをしてる。
じゃ、朝食も豆アジだぞ?
2匹のアジを飲み込ませ、嚥下を確認し、ホーチョーに行く。
今朝の散歩は、犬じゃなくて、クチボソミズナギドリと♪
適当な大きさの箱が無かったから、犬足拭き用のタオル二枚にそっと包んで手で持つ。
ウェットスーツ着るか悩んだけど、波は収まってると読んで水着にもなるハーパン穿いて、ビーサンでペタペタ海に向かう。
動くタオルを小脇に持った早朝の散歩を、すれ違う人は気にも留めない。
時々モゾモゾ出てくるけど、顔をタオルで覆うと大人しくなる。
思ったとおり、波は穏やか。
波の無い、材木座の端っこまで歩いていく。
見知らぬサーファーに頼もうかとも思ったけど、波のセットのタイミングを見て、ジャバジャバ海に入る。
タオルから出してじかに手に持つと、ミーちゃんは泳ぎたくて暴れる。
そっと海面に下ろすと、さすが海鳥、上手にスイスイ泳ぎだし、プリッとフンをした。
そしてミーちゃんは、綺麗な「ハ」の字の水紋を描きながら、沖に向かって脇目も振らず一直線に泳いでいってしまった。
ミーちゃんの温もりが残るタオルを畳みながら、波打ち際で、小さな黒い点になったミーちゃんを、いつまでも見送った。
そして、朝の開院前に獣医さんが電話をくれた。
「どうですか?」
「ホーチョー成功です!」
「良かった〜、元気になったンですね!」
朝の美味しい空気と、海の水の心地よさ、元気になって泳いで行ったホーチョーの成功で、いつもよりウンと気持ちの良い朝になった。
2008年 5月
台風のすんごい南風が吹いた午後、海に行く時間も取れず、取れても出れる風域を超えてたなぁ〜と。
髪を振り乱し、ブツブツつぶやきながら、ヨロコビ跳ねる犬たちを連れて夕方の散歩に出かけた。
ふと見ると道端に黒い塊。
カラスより小さめ、鳩より大きめな鳥がうずくまっている。
動いてるから生きてるのが分かるけど、なんでこんな道端に?
ここらは車はあまり通らないけど、猫の社交場だから、見つかったら喰われるよ?
幸い、跳ねる犬たちには、まだ見つかってない。
でも二匹連れてて、鳥は持ちにくい。
もう一つ手が欲しい。
仕方ないから引き返して息子Aに声を掛ける。
「鳥が落っこってるぅ〜!」
返事をするより先に、すぐに出てくる息子A。
不言実行タイプだ。
とにかく跳ねる犬たちの気持ちもあるから、散歩続行。
近所の公園で手短に誤魔化して、帰りに鳥が居た場所をもう一度見る。
もう居ない。
飛んでったか?
車の下を覗いても見つからない。
あたりに、まだ猫は居ない。
ちょっと残念な気持ちで家に帰ると、ガレージに猫用の小さなバリケン。
中には、フリマで50円で買ったキティちゃんのピンクの毛布。
そして息子Aの誇らしげな笑顔。
「簡単に捕まったよ?」
ヤチョーを保護することは、鳥にとっては凄いストレスになり、それで死んでしまうことがある。
でもあのままあそこに居たら、間違いなく猫たちに苛められる。
猫クサイ、猫のキティちゃんの毛布じゃ、やっぱストレスかな〜?
早速、バリケンから出してみるが、ヨタヨタとバタついていて羽を痛めたのかもしれない感じ。
真っ黒な鳥で、嘴はかもめチック。
足は水かき、目はなんとも可愛い。
子供の海鵜か!?
獣医さんは午後休診の日だ。
どーしよ…。
でも、やっぱ聞いちゃおう!
獣医さんの携帯に電話してみるとすぐに繋がった。
「実はヤチョーを保護しちゃって…。」
「どんな鳥ですか?」
特徴を話すと、獣医さんは
「あ〜、その鳥なら、このところ3羽保護して餌与えて、ホーチョーしてます。すぐに連れて来てください。」
主婦は、3秒迷ったけど夕食の支度の放棄を決め、夕暮れの国道をヤチョー乗せて走った。
(明日に続く)
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