2008年 5月

休診にも拘らず、すでに獣医さんは、病院に戻って待っててくれた。
診察台に載せて、羽のチェックをしたら、どこにも怪我は無かった。
良かった〜、羽が折れていたら生きてはいけない。
この子は、クチボソミズナギドリって言う名前なんだそうだ。
南風に乗って、あったかい国から来た鳥なンだけど、この強風の中を飛び続けて、疲れ果てて海まで辿り着けずに、陸に落ちてしまったンでしょう。
浜にはたっくさん、こういう鳥が死んで打ち上げられていますょ。
アホウドリに近い仲間で、向かい風に羽を広げて飛び立つコトは出来るけど、水中を泳いで餌をとるような足の形なので、陸では歩けない。
歩こうとすると甲を着いてしまうので、海でないと生きていけない。
一日も早く海に返してあげることが大切だと、獣医さんは教えてくれた。
そー言えば、そういう鳥って居る居る。
あっちで潜ったと思うとしばらく出てこなくて、突然違うそっちからプハッ!って出てくる鳥。
見てると面白いの。
そして、今まで保護した仲間に与えた豆アジの残りを出してきた。
ちょっとこの子には大きい魚なんだけど…って言いながら、口に押し込んでやると飲み込む。
注射器で水を飲ませて嚥下を確認する。
3匹食べさせると、プリッとフンをする。
食べたら出る、単純な構造だ。
うまくバランスをとって立てないので、なるべく狭い箱に入れて、保温して暖かくしてあげて下さい。
ペットボトルにお湯を入れた湯たんぽが良いです。
明日の午前中に波の無いところまで持って行って、海にホーチョーしてやってください。
ボクは、今朝もホーチョーしたンだけど、浜辺に行ったら友達が波乗りしてたから、ちょっとちょっと!って呼んで、「コレ、沖まで行って放してくれる?」って箱を頼んだンですょ。
箱を渡された友達、「え〜!何が入ってンの〜?」って聞いてたけど、沖に行ってのお楽しみ!って言って。
豆アジの餌も貰い、ミズナギドリのミーちゃんと帰宅する。
ペットボトルの湯たんぽを作り、バリケンの下に入れて毛布で包む。
部屋を暗くし、ゆっくり休ませて体力の回復を願う。
もしかしたら、明日の朝、死んでるかもしれません。
でもそれは仕方の無い事ですから、ね。
ホーチョーしても浮かぶことが出来ずに沈んでしまうようだったら、その子は生きていけません。
可哀相だけど、それが野生動物ですからね。
優しい獣医さんは、私の気持ちまで丁寧に気遣ってくれた。
翌朝、寝起きにすぐ、ミーちゃんをチェックする。
元気になってる!やったぁ〜!!
キティちゃん毛布にいっぱいフンをしてる。
じゃ、朝食も豆アジだぞ?
2匹のアジを飲み込ませ、嚥下を確認し、ホーチョーに行く。
今朝の散歩は、犬じゃなくて、クチボソミズナギドリと♪
適当な大きさの箱が無かったから、犬足拭き用のタオル二枚にそっと包んで手で持つ。
ウェットスーツ着るか悩んだけど、波は収まってると読んで水着にもなるハーパン穿いて、ビーサンでペタペタ海に向かう。
動くタオルを小脇に持った早朝の散歩を、すれ違う人は気にも留めない。
時々モゾモゾ出てくるけど、顔をタオルで覆うと大人しくなる。
思ったとおり、波は穏やか。
波の無い、材木座の端っこまで歩いていく。
見知らぬサーファーに頼もうかとも思ったけど、波のセットのタイミングを見て、ジャバジャバ海に入る。
タオルから出してじかに手に持つと、ミーちゃんは泳ぎたくて暴れる。
そっと海面に下ろすと、さすが海鳥、上手にスイスイ泳ぎだし、プリッとフンをした。
そしてミーちゃんは、綺麗な「ハ」の字の水紋を描きながら、沖に向かって脇目も振らず一直線に泳いでいってしまった。
ミーちゃんの温もりが残るタオルを畳みながら、波打ち際で、小さな黒い点になったミーちゃんを、いつまでも見送った。
そして、朝の開院前に獣医さんが電話をくれた。
「どうですか?」
「ホーチョー成功です!」
「良かった〜、元気になったンですね!」
朝の美味しい空気と、海の水の心地よさ、元気になって泳いで行ったホーチョーの成功で、いつもよりウンと気持ちの良い朝になった。

台風のすんごい南風が吹いた午後、海に行く時間も取れず、取れても出れる風域を超えてたなぁ〜と。
髪を振り乱し、ブツブツつぶやきながら、ヨロコビ跳ねる犬たちを連れて夕方の散歩に出かけた。
ふと見ると道端に黒い塊。
カラスより小さめ、鳩より大きめな鳥がうずくまっている。
動いてるから生きてるのが分かるけど、なんでこんな道端に?
ここらは車はあまり通らないけど、猫の社交場だから、見つかったら喰われるよ?
幸い、跳ねる犬たちには、まだ見つかってない。
でも二匹連れてて、鳥は持ちにくい。
もう一つ手が欲しい。
仕方ないから引き返して息子Aに声を掛ける。
「鳥が落っこってるぅ〜!」
返事をするより先に、すぐに出てくる息子A。
不言実行タイプだ。
とにかく跳ねる犬たちの気持ちもあるから、散歩続行。
近所の公園で手短に誤魔化して、帰りに鳥が居た場所をもう一度見る。
もう居ない。
飛んでったか?
車の下を覗いても見つからない。
あたりに、まだ猫は居ない。
ちょっと残念な気持ちで家に帰ると、ガレージに猫用の小さなバリケン。
中には、フリマで50円で買ったキティちゃんのピンクの毛布。
そして息子Aの誇らしげな笑顔。
「簡単に捕まったよ?」
ヤチョーを保護することは、鳥にとっては凄いストレスになり、それで死んでしまうことがある。
でもあのままあそこに居たら、間違いなく猫たちに苛められる。
猫クサイ、猫のキティちゃんの毛布じゃ、やっぱストレスかな〜?
早速、バリケンから出してみるが、ヨタヨタとバタついていて羽を痛めたのかもしれない感じ。
真っ黒な鳥で、嘴はかもめチック。
足は水かき、目はなんとも可愛い。
子供の海鵜か!?
獣医さんは午後休診の日だ。
どーしよ…。
でも、やっぱ聞いちゃおう!
獣医さんの携帯に電話してみるとすぐに繋がった。
「実はヤチョーを保護しちゃって…。」
「どんな鳥ですか?」
特徴を話すと、獣医さんは
「あ〜、その鳥なら、このところ3羽保護して餌与えて、ホーチョーしてます。すぐに連れて来てください。」
主婦は、3秒迷ったけど夕食の支度の放棄を決め、夕暮れの国道をヤチョー乗せて走った。
(明日に続く)

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