毎月第2・第4木曜日更新 (連載の場合は続けて次週更新します)

Back number

Vol.29 宇宙戦艦ヤマトのテーマに乗って
 

観艦式に行ってきた。
海の仲間に自衛隊大好きな人がいて、いつも観艦式を楽しみに出かけていると聞いていた。
一度は観てみなくちゃ…と思っていたら、貴重な乗船チケットが手に入り、行く機会に恵まれた。

昔、横須賀の港を通りかかった時、偶然見かけた潜水艦。
「うわっ、本物だっ!」と驚き、感激した。
今日はこれから、まさしく本物ばかりのオンパレードなのだ。

朝早くに、港のまりりんは横須賀の駅に降り立つ。
船上では風に吹かれるのでとても寒いと聞き、2ヶ月先取りくらいの重装備服に加え、雨が降った時のために雨合羽もディバッグに詰め込んで背負ってきた。

昼ご飯はコンビニでおにぎりを買って来た。
飴とチョコも忘れずに。
カメラは充電バッチリだ。

太平洋戦争時、海軍で通信兵だったという父の面影を想像してみる。
実家の物置にしまってあった海軍の白い制服と帽子。
金のボタンには、桜に錨の絵が描いてあった。
近所のパチンコやさんでは、いつも軍艦マーチが流れている時代だったから、幼い私でも軍歌を覚えてしまっていた。

横須賀の駅から人の波に乗って歩いていくと、空港のような持ち物検査と金属探知機による身体検査があった。
見知らぬ人たちを船に載せるのだから、爆弾でも持ち込まれたら大変だもンね。
早く着いたお陰で、船には一番乗りした。

「カッコイイ〜ッッ!」

見るもの、居る人、全てがカッコイイ。
ここから私の頭の中では、「宇宙戦艦ヤマトのテーマ」がエンドレスで流れ始める。
でもこれはアニメではなく、映画のセットでもなく、すべてが本物なのだ。

乗船してしばらく船内を探検していると、いつのまにか静かに船は動き出していた。
電車のようにベルが鳴るでもなく、揺れるコトもなく。

母が言っていた。
「船の別れは、なかなか行ってしまわないから悲しいのよ。」

その別れが、誰との別れだったのか聞きそびれたが、父が乗った船だったのか、叔父さんがインパール作戦へ向った船なのか、アメリカへ渡った別の叔父さんの氷川丸なのか。
沢山の紙テープが舞う出航だったのだろうか。

今回の出航は楽しい船出。
これから約2時間のクルージングの後、観艦式が始まるのだ。
艦内放送で、あれが防衛大学、とか、観音崎灯台とか教えてくれるので、ちょっとした観光クルージング気分だ。

小雨が降ってきて、持ってきたジャンパーと雨合羽を着込み、なり振り構わぬ可笑しな格好で、甲板に座り海を眺める。
貸して貰った防衛庁の毛布に包まって、船中どこにでも人が座り込んでいるので、勇ましい難民船のようでもある。

船には見たコトもない不思議な物が沢山ある。
デザインも面白いし、何するものだか解らない。
でもとにかく写真を撮りまくってみる。

船に一日乗ると聞いた時、船酔いが心配だった。
乗ってしまったら、もう下りたい!と言っても下ろしてはくれないだろうから、帰るまで我慢するしかない。
だいたい船に乗ったことなんてほとんど無いのだから、船酔いする体質なのかどうかさえも分からない。
先手を打って、酔い止めを飲んでおくべきか悩んだけれど、なんとかなるだろう!と賭けに出る。

出発してしばらくして浦賀水道に出ると、大きな船とはいえ少しは揺れる。
甲板に、ジィ〜っと座っていると、揺れが気になり始め、もしかしたら気持ちが悪くなるかも…?
こりゃマズイ!と、自分から揺れる事にする。

頭の中の戦艦ヤマトのテーマに合わせて、目立たないように座ったままリズムをとって踊り始める。
うん、これで大丈夫。
自主的楽しい揺れによって、船酔いを忘れる事が出来た!

おにぎりもしっかり食べ、艦内で買ったおみやげの海軍カレーパンまで試食。
そうこうしてるうちに、観艦式が始まった。

艦内放送では、右に左にと、丁寧なガイド説明がある。
船の違いなんて、私にはまったく判別できないから、貰ったパンフレットを眺めてみるが、大きさの違いくらいしか分からない。

私が乗ったのは、あさかぜという護衛艦。
かぜシリーズっていうのがあって、たちかぜ、あさかぜ、さわかぜ、はたかぜ、しまかぜ、おたふくかぜっていうのがあるそうだ!?うっそ〜!?!?

他の護衛艦と、光の信号でピカピカ連絡をする。
ミサイルを収納したり、ぐるぐる動かして見せてくれる。

隊員が駆け足で甲板に集まり、一瞬できちんと並び、不動の姿勢で立つ。
護衛艦やら潜水艦、海上保安庁の巡視船などの22隻からなる艦隊が進んでいく。
空には、UP-3C、海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊などの編隊28機の部隊が飛来する。

祝砲が鳴らされた。
耳を塞ぎ身を縮めて構える。
それでも驚く大きな音。

潜水艦の潜航・急浮上という、珍しいドルフィンジャンプを見せてくれる。
甲板散水という汚染された船体を海水で洗浄し、赤外線誘導弾ミサイルを回避するIRフレアーを発射する。

沿岸での哨戒・海上阻止戦力・不審船対処能力を備えたミサイル艇が走る。
ホバークラフト型の輸送用エアークッション艇が高速で航行する。
US-1Aという救難飛行艇が飛行し、海面に離着水する。
P-3C哨戒機が飛んできて、IRフレアーを発射する。
そしてまたP-3Cが対潜爆弾を投下する。

次々と目の前で起こるコトが現実で、そこまでやって見せてくれるのか〜!と、カメラを持つ手に力が入る。
そんなに爆発させたら、海中のお魚死んじゃうンじゃないの〜?

でも、気持ちは報道カメラマン、ここが平和な相模湾で良かったあ。
帰りの浦賀水道は夕日が綺麗で、今度は風景カメラマンに転身。
このクルージングもロマンチックで素敵!
ここでウィンドしたら貸し切り海面で最高かも〜♪…などと考えてみる。

岸壁には自衛隊の制服に身を包んだカッコイイ方々が、並んでお出迎えしてくれていた。
日はとっぷりと暮れ、船たちには灯りがついて、それもまた綺麗だった。
陸に上がったよれよれ難民は、一般人に戻り、電車に揺られて帰ってきた。
横須賀って近いンじゃん!
今度、スカジャンでも見に行こっかな〜♪

※次回の更新は11月23日(木)です。お楽しみに。