毎月第2・第4木曜日更新 (連載の場合は続けて次週更新します)

Back number

Vol.3 突然の出来事 その3
 

24時間点滴を毎日続け、貧血は更に進み、血管が弾力を失い、ボロボロになってきた。反対の腕に留置針を変えようとしても入らず、針を入れても血液は出ず、薬も漏れて浮腫んでしまう。
点滴を拒否しているかのようなその状態に、もう点滴はしなくてもいいと獣医さんに言った。
水も飲めないナッシュにとって、点滴をしないということは、消極的安楽死かもしれないけれど。

獣医さんは、どんなに弱ってるコでも血管が取れないなんてことは今までにも無かったと、後肢でも試し、なんとか直接の針で入れてくれた。

夕方、ナッシュの呼吸と脈は速くなり、しきりに寝返りをしたがったり落ち着かなくなった。全速力で走っている位の状態。酷い貧血だった。
膝に抱きかかえ頬ずりし、最後に私に出来る事は、声をかけ、撫ぜながらの手当てだけ。

「ナッシュ、ナッシュ、大丈夫か?ナッシュ、しっかり。カービー!?ナッシュ!?」

ウチのコになる前のナッシュの呼び名でも、呼んでみた。
その名で呼ばれていた4年の時間の方が、ナッシュになってからの時間より少しだけ長いのだ。
その名で呼んでいた飼い主さんも、このコを愛してくれていた。
今の状態をメールで知らせたから、一緒に快復を祈ってくれている。
その名とその人も忘れないようにと、ナッシュの記憶にそっと刻んだ。

息子に頼んで薬局に走って貰い、スプレー缶の酸素を買い占めて来て貰った。
速い呼吸に酸素を吸わせてあげると、暫くは落ち着く。
それを何度も繰り返した。
出かけていた家族も帰宅して揃った。
皆がナッシュと挨拶し、ナッシュもそれを理解し待っていたかのようだった。

獣医さんが来てくれたので、呼吸が落ち着いて眠れるような処置をお願いした。
「もしかして、薬の効き目が強く働くと、今の状態だと心臓が耐え切れず止まってしまうかもしれません。でもこの呼吸の状態が長く続くと辛いし可哀想ですから、注射を打ちましょう。」と、安楽死には反対の獣医さんも言ってくれた。
初めから、ナッシュが苦しまない事、痛くない事、を第一に治療したいとお願いしていた。

数時間後、ナッシュは眠ったまま、静かに息を引き取った。穏やかな表情だった。

その日は、クリスマスイヴだった。
ナッシュは、サンタさんの番犬になって、トナカイと一緒にガウガウ言いながら空に駆け上って行ったのだ。

まだまだ一緒に居たかった気持ちが強く、諦め切れない気持ちだけど、愛情は長さじゃない、深さなンだ!と、写真のナッシュは微笑んでくれている気がする。

私の頬っぺたに顔を押し付けて、じいーっと甘えるナッシュが大好きだった。
兄と母を亡くして心が痛かった私を、その大きな体で慰めてくれたのはナッシュだった。
ナッシュとの暮らしで悲しみが癒され、私は毎日が幸せになった。

ナッシュの旅立ちを知った友人たちから、次々と慰めのお花を頂いた。
その一つ一つを受け取るたびに、ナッシュを想い、私に優しくしてくれる人々が有難くて涙が溢れた。

有難うナッシュ、君と出会えて本当に良かった。
また会おうね!
私が逝く時には、アリスと一緒に迎えを頼むよ!

※次回の更新は2月9日(木)です。お楽しみに。