毎月第2・第4木曜日更新 (連載の場合は続けて次週更新します)

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Vol.2 突然の出来事 その2
 

不自由な体でも、日増しにバランスの取り方が慣れてきて上手になった。
自分で起き上がって座り、前足を使ってよいしょよいしょとかなり移動し、私が驚くと悪戯っぽく笑って見せる。
寝返りも自力でうまくするので、床ずれの心配は無かった。

この頃、おしっこはちょろちょろ漏れていた。
タオルで吊り上げてお腹に力をかけた時など、ジャアーっと出たりもした。
でもアリスを看病した時、嗅いだ事のある腎不全の匂いがし始め、もしかして!?と獣医さんに聞いて、おしっこを抜いて貰ったら随分溜まってしまっていた。
膀胱の感覚が麻痺していたので、自分で全部出すことができなかったのだ。

獣医さんは毎日朝晩、時には昼も通ってきて注射、血液検査、膀胱洗浄など治療をして下さった。
人間でもこんなに手厚い看護はなかなか受けられないだろうと言うくらい、獣医さんも整体の先生も、皆さんいい人達で、とても熱心な治療が受けられた。

整体治療のお陰で、最初は全く動かなかった後ろ足も蹴ったりと反応はどんどん良くなり、尻尾もパタンパタンと動かすようになってきた。

馬尾症候群という病名を獣医さんが口にした。
余り聞く病名ではない。
ネットで調べてみると症状は似ている。

でも整体の先生が仰るには、
「馬尾だったら後肢は全く動かないのではないだろうか。
ナッシュは後肢に感覚が戻ってきているので、内臓さえ良くなれば、春には海岸散歩も夢ではない。」
と、励まして下さった。

でも足の動きが良くなって来たのと反対に、何故か、内臓の方は悪化してきた。
病院へ運び、レントゲン、CTを、撮って貰った。
股関節形成不全の末期の状態と言われたが、腫瘍などは見つからなかった。
腎臓が異常に小さくなっていて、働きをやめようとしている状態が見えた。

腎不全、肝炎、膀胱内の血膿、腎不全からくる十二指腸か胃の潰瘍による出血、下血、そして吐き気。
多臓器不全に陥っていた。

それでも獣医さんはなんとか快復させようと、自宅で24時間の点滴治療になった。
私も付きっきりで昼夜、点滴の管理。
携帯電話のアラームを、夜中、2時間おきに掛けて、ナッシュの横に添い寝した。

水を舐めても吐き気が襲い、餌はまったく食べられなくなった。
大きな黒い鼻はすっかり乾き、濡らしたキッチンペーパーで潤した。
乾いて粘々する口に、咬み砕いた小さな氷を入れて舐めさせた。
貧血が酷く、寝返りをうつのもやっとの状態。
アレックスやタイラーからの輸血も提案したが、腎臓に負担がかかるので無理だった。

排尿は圧迫しても出ないので、カテーテルを入れた。
排便は何も食べていないのでほとんど無く、たまに自然に出るが、古い血液の便。
みるみるナッシュの体は骨と皮に痩せ細り、あばら骨が厚い毛の下で呼吸していた。
それでも意識はしっかりしていたので、抱きかかえ、さすりながら励まし続けた。

「ナッシュ、しっかりしろ〜。ママが付いてるぞぉ。愛してるよぉ!可愛いナッチッチ、元気になれぇ〜。ナッシュの腎臓良くなあれ〜。ナッシュの肝臓頑張れ〜。」
「まだまだ一緒に遊ぶンだからね。アレとガウガウごっこするンでしょ?元気になってドッグラン行こうよ。みんなで海に行こう!山にハイキング行こう!」
「ご飯食べられるようになろうね。ご飯食べて良いウンチして元気になろう。ママ、美味しいごちそう作っちゃうよっ!早く良くなって食べようね。」

なんとかクリスマスを迎え、お正月を祝い、8才の誕生日を一緒に過ごしたい。
何故こんなことになったのか、あまりに突然の出来事で、悔しいし悲し過ぎる。
こんなことって堪らない!と言う気持ちをパワーに変えて、日夜必死の看病をした。
意地だった。死なせるモンか!奇跡の快復をさせてみせるンだ!気合だあ!!

〜つづく〜

※次回の更新は2月2日(木)です。お楽しみに。