Vol.99

西っけの日

土曜の深夜、「トイレに行きたいよ〜、ワンッ!」とナッシュに起こされた時、凄い風が吹いていた。
いそいそと外のトイレで用を足すナッシュを待ちながら、暗がりで腕組みして考えた。

「おお〜、夜中にこんなに吹いちゃって、モッタイナイ!明日まで残るかな?」

そして翌日の日曜日、今年最後の南風!?が残ってた。
この分じゃあどんどん上がってきて、夕方にはドン吹きになりそうだ!
早い内に行って、楽しまなくっちゃ。

軽い朝食を済ませ、浮き足立って家を出る。
若宮大路には、海からの強めの風が入っている。

風なんてなにも気にしてなさそうな人々が、ぞろぞろ海へ向って歩いてる。
夏でもないのに、朝からこの人出はなんだ?お祭りかイベントか??
そっか、おデートね!
いい天気だし、砂さえ飛ばなけりゃ海は気持ち良い最高のデートコースだ。

滑川の信号に辿り着いて海を見た私は、思わずため息をついた。
波が立ってかなり荒れている。
それも南風の波だから、ぐちゃぐちゃだ。

砂浜に出てみると、風で砂が飛び、目を細めてサングラスを忘れたコトを後悔する。
私にゃあ、強すぎる。
日本じゃないみたいな、この風と波。

こんなに波があったら、出て行くのも難しい。
んで、出られても帰ってこられるのか?
パスポートは持ったし!?

とにかく迷いながらも準備する。
難しいコンディションだから初心者用のあのイージーライダーという名のデカ板、セイルは一番小さいのにする。
水はもう冷たいだろうからフルスーツ。
フルスーツの足首は、細くて足が通しにくいから、スーパーの袋を靴下代わりに足に履いて着替えるとス〜ッと着られる。←おばちゃんの知恵袋。

「今日は、和賀江島の奥の方まで行ってから出た方がいいよ。」

あそこは、私の海の玄関口。
行ってみると満ち潮で、ウィンドサーファーがもの凄く大勢来ていて、浜は足の踏み場も無いほどの混雑だ。

それでもなんとか波打ち際までデカ板を運び、セイルをつけて海に入る。
セイルが風に煽られて、右へ左へと暴れまくる。

ここは比較的、波も少なくて出て行きやすい。
ところが海の中も人が多くて、私の行く手はブロックされている。

リフトを降りたところのゲレンデ状態。
隙間をすり抜けて行ける程の自信がまだないから、人の居なくなるのをじっと待つ。
待つ。
待つ。。待つ。。。待つ。。。。。
居なくならない。
そう、今日のここは、初心者スクールの玄関だったのだ。

ボードに寄り添ったりセイルを引き上げてる人達は、いっこうに船出していかない。
ちょっとの隙間を抜けようと近づくと、バサ〜ッとセイルが倒れてくるし、フワ〜ッとこっちへ寄ってくる。
なんとかここを抜けて行かなくっちゃあ、海には出られない。
人ごみの一番端っこまで回りこんで、外側から抜ける作戦を取る。
あんまり左端へ行くと、足元の海底が岩場になるので歩きにくい。

やっと船出だ。風は強いけど、良い感じ♪
玉石近くを通り、漁船のもんざ丸を左に見ながら走り出す。

もんざ丸を過ぎて、20メートルくらいまでは、波も小さくて安全。
それより先に行くと、逆巻く波を乗り越えて〜♪方向転換が難しくなるからこの辺でよっこらしょ!と引き返す。
戻ってくると、またスクール玄関の混雑に突入する。

「こういう日は、ビーチスタートの練習にいいンだよ。」

仲間に教えてもらい、何度か練習する。
そこへ我らのリーダー、沖から戻ってくる。

「まりちゃん、がんばれ〜。」
まるで自転車に乗ってるが如く、どこへでもスイスイと海上をウィンドで動き回ってる。

根性ちょっと出してスィ〜ッとビーチスタートできた私は、リーダーの後について走り出した。
後ろの私を振り返り振り返りしながら走るリーダー、縦に並んで同じコースを辿る私。

コース上の人を避け、もんざ丸を通り過ぎ、同じ姿勢になるようマネをして走ったほんの数分間。
イージーライダーで、ボーントゥビーワイルドできちゃって、めちゃめちゃ気持ち良かった〜♪

まるで自分がうまくなっちゃって、リーダーみたいにカッコよく走ってるような錯角に酔いしれることができた。
スノボーでも、上手な人に付いて後ろを滑ると、一人で滑るよりうまく滑れるから同じコトなンだね〜。
その後、風は落ち、ジャイブ、タックの回転ワザを練習して楽しんだ。

夜は、もちろん「焼き」ながら「飲み」ながらの反省会。
今日みたいな西っけの風は、一番乗りにくい風なンだそーだ。
波もあったし、うねりに揉まれて苦労した。

この湾のどこに波が立ち、風がどの向きで入り、潮目がどこで変わるか。
リーダーが、大きな紙に書いて講義してくれた。
水があって、風が吹けば遊べるってぇだけじゃあないのね。

自然の中で遊ばせて貰ってるということは、謙虚にならなけりゃ怪我のもと。
モーターの付いてない道具だから、無理したって自然の力には敵わない。
日ごろの憂さも疲れも綺麗に洗い流してくれる海遊びは、何より心地よいストレス解消。
夕日は、ご褒美にしちゃあ綺麗すぎて感動する。

だから、家が遠くたって、時間かけて、電車に乗って、海へ通うンだよね〜。
風の吹くまま、潮の流れるまま、波に乗って、お気楽に笑いながら過ごせたコトに感謝した、西っけの練習日なのであった。