Vol.90

くのいち

私が通ってるゴルフスクールでは、年に一度、合宿がある。

でもゴルフスクールに入ってる方々は、紳士淑女のオトナだから、合宿などとは言わず、ゴルフキャンプって言うのだそうだ。

2泊3日で北海道 に行くというので、メロン食べたさに、今回、初めて参加してみることにした。
参加者は50名ほどの生徒さんたちと、プロの先生たちやスタッフが10名ほど。

ゴルフは老後も楽しめるスポーツと思ってる私は部活的発想、服装も伸縮する普段着にスニーカーだ。
ところが、参加者はほとんどが私より年上の方々で、みなさんきちんと革靴を履いてジャケットをお召しである。

しまった!ゴルフ場はジャケット着用って原則だったっけ。
ま、いっか。リゾート気分ってコトで許して貰おう〜。

朝の5時集合、5時15分出発というゴルフに付き物の早起きなスケジュール。
5時5分前に七里ガ浜のスクールに着いてみれば、すでに全員集合済み。
ぞろぞろとバスに乗り込み、5時にはさっさと出発した。
みなさん旅行慣れしているようで、じつに動きがいい。

羽田からあっというまの1時間15分で、は〜るばる来たゼ函館ぇ。
それからまたバスでウトウトしてると、ホテルに到着。
昼食を取るとすぐにレッスンが始まった。

鎌倉とはだいぶ気温が違い、空気が冷たく澄んでいてとっても美味しい。
新緑が輝き、桜がハラハラと散る中、2人乗りのカート3台連ねて、先生のレッスンを受ける。

今日は我がスクールで、駒ケ岳コース9ホールを貸し切り。
ティーショットの練習で、籠一杯のボールをどんどん打たせてくれる。
ボールが無くなるとコースにカートで乗り入れてボール拾いをし、今度はそこからフェアウェイの練習〜と楽しい♪
芝生の種類が本州とは違うそうで、やけに粘っこくブレーキが掛かる。

先生のお話を聞いていると、目の端に何かが動く気配。

「あ!キツネだあ!!」

ムツゴロウさんのテレビでしか見たことなかったけど、本物の野生のキタキツネだ。
こっちを意識しながら、さほど警戒もせずコースの脇を歩いて行った。
すごい!ホントに北海道なんだなあ。

キタキツネはエキノコックスっていう恐い寄生虫がいるから、触っちゃいけないンだって。
遠くから眺められただけでも充分満足♪
鼻の尖がった顔も尻尾のフサフサも、なんだかアレックスに似ててカワイイねえ?

長〜〜い一日が終わり、お風呂に浸かってとろけた後、お腹をすかせて懇親会という夕食に行く。
いつものスノボーのノリで、ウェスト・ゴムの楽〜なジャージに、髪は濡れたままの私。

ところが同席の参加者のみなさん、ジャケット着用、バッチリお化粧、髪はきっちりセット、イヤリング、ネックレス、ドレスにハイヒールといった気合のイデタチである。
う〜ん、こりゃあ私、ちと場違いだったかも〜?

ハズレ無しのくじ引きで盛り上がり、美味しいお料理に舌鼓を打ち、すっかりリラックス。
そしてベッドに横になった瞬間に爆睡して、気が付くと翌日が始まっていた。

2日目は北海道 カントリークラブというコースで、先生に教えて貰いながらコースを廻るというレッスン。
昨日よりも広いコースだけど、カートに積めるのはゴルフバッグだけ。
人は全て歩くのだ。

普段、3匹の犬の散歩に2〜3時間は歩いているから、犬の代わりにクラブを2〜3本持って芝生の上を歩くと思えば、どお〜ってこたあ無い。

練習場とは違って、広い芝生の上で打つとやっぱり気持ちがいい。
たまにナイスショットが出ちゃうと、「うお〜っしっ!」って爽快感が味わえる。
あ〜、なあんて幸せなンだろ〜。
こんな綺麗なコースで、こうやって先生付きっ切りでゴルフが習えるなぁんて!

私たちの組は、女性3人と男性一人。
女性たちは一生懸命やっても、ミスも多いし距離も出ないから、どうしても時間が掛かる。
後ろの組を待たせては申し訳ないから、私はボールのトコまでクラブ担いでひた走る。

狙ってもいない崖にボールが飛んでったり、深いラフの芝にボールが隠れて見えなかったり。
そんなトラブルにもキャディさんは動じない。

タァ〜っと崖を駆け上り、ラフでもアッと言うまにボールを見つける。
私が真剣に見ていてもすぐに見失う他の人のティーショットだって、千里眼でボールの行方をちゃんと見届けている。
蚊に刺されて掻いていたら、フキを手折ってその汁を塗ってくれた。痒みが収まるらしい。
あの身のこなし、動体視力の良さ、薬草の知識、常人じゃあ〜ないとお見受けした。
そう、じつはキャディさんは、忍者なのだ。
女性だから「くのいち」で、気晴らしにゴルフ場でバイトしてるのに違いないのだった。

2日目はスルーで昼休みを取らずに、一気に18ホールを廻って昼過ぎには終わった。

「これから半日、他にする事もないし、じゃあカートのある昨日のコースで、もうハーフ廻りましょうか!?」遅い昼食を取りながら、そんな提案が出される。

恐るべき根性と、もの凄い体力のメンバーたちである。

前にも後ろにも他の組がいないから、先生も一緒に、またレッスンをしながらゆっくり廻る。
終わってホテルに戻ってみると、もう6時だった。
廊下ですれ違う一緒のツアーの方々は、もうすでに温泉にも入って綺麗にお化粧し、すっかりドレスアップして夕食へ向うご様子。
私達は髪振り乱して芝生にまみれ、さすがにうつろな眼差しでヨレヨレに疲れ果てていた。
人の話じゃ3万歩も歩いた一日だったとか。

「私達だけ、まるで体育会の合宿のノリですよねえ?」
「おっかしいなあ、去年まではそんな感じじゃなかったンですけどねえ。」
それって今年から参加の私のせい?

3日目の最終日は、雨の中、ここもカート無しのプリンスコースを、またスルーの昼休み無しで18ホール廻った。
キタキツネは合計4度出現し、最後はグリーンでレッスンを受けてる私達の側まで来て、先生が置いたパターの赤いカバーの匂いを嗅ぎ、持って行くかと思いきやオシッコを掛けて立ち去った。
あ゛〜!と叫んで駆け寄った時には、キツネは悠然と
OBゾ〜ンに消えていった。

野生のキツネ、くのいちと遊んだ山の美しさには、北海道 らしいでっかい感動と幸せがあった。
また行ってみたい「キャンプ」という名の「厳しい合宿」だった。