Vol.80

ブラック★デビル参上

仔犬メス・シェパのアレックスは、家族会議にかけるまでもなく正式に譲り受けることになり、我が家の一員に加わった。

それまでは、トライアル期間という形での借りてきたシェパ。
さすが借りてた間は、下痢で体調が優れなかったこともあるし、環境に慣れるまでは様子を窺っていたのだろう。とっても大人しい良いコだった。

正式譲渡が決まる頃には、家庭のルールやリズム、力関係が理解でき、体も健康になったしで、すっかり落ち着いて犬家族の一員に収まった。

先住兄犬たちに対しては、いつも頭を低くして耳を後ろに倒し、口元を舐めてご挨拶。
セッターのタイラーお世話係りは、その挨拶を「よしよし。」と受け入れている。
シェパのナッシュおぢさんは犬付き合いが苦手な方なので、「なに!?止めてよぉ〜」とびっくりして逃げていく。
それぞれの個性がある。

でも我が家の犬家族の最下位に位置することをアレックスが理解しているので、先住犬たちにはすんなり受け入れられた。
犬社会では、この順位付けが大切だ。

順位を教える一つの方法は、人間が上位の犬から順番に餌を与えていく。
躾けらしいことはほとんど何もされてなかったアレックスだったので、餌を食べられる順番を覚えさせるのに、始めは別部屋で待たせた。

それが一日で「座れ」を覚え、すぐ「待て」も理解し、待ちきれなくなると教えもしないのに、タイラーの真似をして「お手」までして見せた。
さっすが、警察犬にもなるジャーマン・シェパード。
頭の良さと回る知恵、覚える速さには驚かされる。

押して開けるドアは、立ってノブを開け、当たり前のように入ってくる。
入れないように紐でくくってノブを固定したら、その紐を引っ張って伸ばし、隙間から難なく入って行った。
ノブにぶら下げてあったおもちゃを引っ張ってドアを閉め、共犯のタイラーを部屋に閉じ込めたこともあった。

うっかり外へ出ると、玄関に待っている戸締り係りのアレックスがどうやるのか、鍵を掛けてくれる。
ホンの数歩で、ガチャ〜ンと後ろに響く鍵の音。
寒空に締め出されること、シバシバだ。

スリッパを脱いで足を掻き、戻した足元にはもうスリッパは無い。
スリッパを咥えて逃げ去る黒い陰、振り返るその顔は笑ってる。
でも「持ってきて〜」と言うと、ちゃんと咥えたまま戻ってくる。

大晦日に年越しに来た友人、脱いだブーツを玄関に置いたまま盛り上がってカウントダウンしてたら、アレックスのおもちゃにされてしまった。
その前にも靴好きの兆候は見えていた。

息子のスリッパがカジカジされてたから、脱いだ靴は下駄箱に入れるよう気をつけてたのに、つい忘れて出しっぱなしにしていた友人の可愛いブーツ。
無残にも両カカトを外され、ヒールは咬み砕かれていたのであった。
これが2004年の悪戯収め。

年が明けて元旦の仕事始めは、お風呂の手桶を持ち出して丹念に歯形を刻み、玄関に掛けてあった靴べらをガム代わりにクチャクチャにした。

友人が作ってくれた鎌倉彫りの茶托は、その素材が明らかになった。

洗面所に置いてあったヘアードライヤーは、邪魔なコードが食いちぎられてコードレスになった。

お風呂洗いの棒付きスポンジは、スポンジ部分を全て剥がし、棒も短くしてくれた。

古いスリッパは、いくつか諦めさせてくれた。

ベランダの植木鉢は次々と盗掘され、玄関前の小さな花壇は、ただのボコボコの土だけになった。
鼻先を泥っだらけにした泥棒顔のアレックスが、ヘラヘラ走り回ってそこらじゅう泥っだらけにするというオマケ付きだ。
あまりの悲惨さに、悲鳴と共に、開けたドアをもう一度閉めて、その始末の方法を考えてしまう。

ゴミ捨てに行く私を追って、門扉の下の隙間から頭を出していたアレックス。
頭が出たって、胸が深いンだから体は出ないよ〜んって思って見ていたら、突然、横泳ぎを始め、みごとに脱出して見せた。

タイラーが大好きなおもちゃを、わざと見せびらかしながら遊び、咥えて逃げて追いかけっこする。
適当に隙を見せてタイラーに取らせ、アレックスは別のおもちゃでまた誘う。
タイラーはマジでアレックスの持ってるそのおもちゃが欲しいし、奪い返したヨロコビを咬みしめている。
どっちがウワテか、もう勝負が付いているけど、楽しそうだ。

ナッシュも遊びに誘われるけど、おぢさんは、そんな子供っぽいこと、子供っぽいこと、で・・でき・・ない・・けど・・・でもちょっと楽しそう〜♪

洗面器を咥えてナニゲに歩いていたり、キッチンバサミが廊下に落ちていたり、台布巾を持ち歩いていたり、アレックスの寝場所に靴があったり、日々いろんな事で飽きさせない。
驚く私が面白いらしくて、本当に悪戯を楽しむというより、見せびらかしてるみたいなトコもあるのだ。

とにかく起きてる間中、目に付くものを何でも口に入れ、咬んでみて壊してみる。

猫達は、あまりのアレックス・パワーに、猫部屋待機で、しばし様子を見ようということになったようだ。

可愛い顔して、やる事はスゴイ。
ブラックデビルの本性が、次第に明らかになってきた。
どうやら今年もにぎやかな1年を過ごせそうだ〜♪