Vol.75

さよなら!?タイラー!

毎週毎週、大型台風が次々とやってきた。
水に噛み付く遊びは好きだけど、雨に濡れるのは嫌いなナッシュ。
外へ出て空を見上げ、「あぁ、雨か〜。じゃ、おトイレ、我慢しちゃおう・・・。」と家へ戻ろうとする。

ドイツの田舎っぺ・剛毛ナッシュは、泥や雨で体が濡れても一振りブルブルで簡単に乾くくらいの重装備。
それと比べてタイラーの方は、イギリスの貴族のお側が似合うような滑らかで薄い毛皮なので、すぐ地肌までびしょびしょに濡れてしまう。

それなのに、ナッシュは雨に濡れるのを嫌い、タイラーは雨の中でもヘラヘラ走り回ってる。
体質と性質は、必ずしも一致するものではないらしい。

おトイレはなるべく家で済ませるので、散歩はもっぱら気分転換が目的。
天気や私の都合で散歩に行けない日もあるので、犬達も毎日朝晩行かれるとは思ってない。
夕方、散歩を催促して庭で悲しげに吠えてる犬がいるけど、我が家ではそんな主張は通用しない。

私がリードを手にスニーカーを履くその時まで、期待を胸にジッと秘め、素知らぬ顔で静かに待つのが、彼らの努めだ。
出かける支度をしてる私を見てドッタンバッタン大喜びしても、「お留守番!」と悲しい一言を聞いてガックリ!振り回していた尻尾と共にうな垂れるコトもある。
そんなヌカ喜びも、時にはあるのが犬生活なのだ。

鎌倉は土や砂利の道がまだまだあり、台風が去ったと言っても、あちこちに湧き水やどろどろの場所が残る。
それが完全に乾く頃を見計らって、ロング散歩に出かけてみた。

まだ紅葉には早いけど、秋風が気持ち良い。
いつもは海岸の散歩だけど、今日は秋の山へGo〜!だ。
鎌倉にはハイキングコースがいくつもあるけど、今日は久しぶりなので、一番短く軽いコース、祇園山に行ってみた。

八雲神社の脇の、ハイキングコース入り口という小さな看板がある、細い道に入る。
狩猟犬タイラーの本領発揮、野生スイッチON!になる瞬間だ。

急な石段の登り坂を、駆け上がり↑駆け下り↓また駆け上がり↑止まる事なく走り回る。
顔には、満面の笑みとヨダレがこぼれてる〜ゥ♪ε=ε=┏U^ェ^U┛
藪の中に分け入り、崖を駆け登り、水を得た魚状態に活きの良いタイラー。
8メートルまで伸び縮みするリードをコントロールする私は、一瞬たりとも気が抜けない。

道は一人分くらいの幅。
木の根や岩で、足元はデコボコ、安定していない。
その上、連れているのが、フルパワーで縦横無尽に駆け回るウナギ犬・タイラー23キロ。
そのそばをドスドス歩くナッシュ32キロ。
勿論、今日は私ひとりで2匹は無理なので、家族にも参加要請したハイキング散歩だ。

登り道は犬に引っ張って貰うのは、まだいい。
子供の頃から崖登りが大好きで、梯子を見ればワケもなく頂上を目指し、ジャングルジムのてっぺんも手放しで走り回っていた猿な私。
行け〜ぇ、タイラーッ!ターボエンジンッ、全開じゃあ〜!

だが問題は下り道だ。
複雑に露出した木の根と、崩れた石が転がる道を降りるには、両手両足、時にはお尻も使って、一歩一歩確認しながらじゃないと降りられない。

そんなへっぴりな私にお構いなしのウナギ犬は、ウヒャウヒャ!あっちに行こっか?こっちへ戻ろっか?楽しいなア〜ッ!っとばかりに脳ミソは野生パワー充満だ。

ちょっと待て、ひっぱっちゃだめ、そこで待て、座れ、こら、おい、タイラー!来い!!
いろんな事を叫べども、心ここにあらずのタイラーは、なんとなく言うことは聞こえるけれど、ご主人様より自然の魅力に勝てない上の空に行っている。

とうとう、タイラーに引っ張られたら転がり落ちそうな、危険な場所へ来てしまった。
迷ったけど一応タイラーは傍にいるし、ここを降りる一瞬だけリードを手放そう。

「タイラー、待て、座れ、そこにいて。タイラー、こら、どこ行くの!、タイラー、タイラーッッ!!」
伸び縮みするリードをカラカラ引きずりながら、タイラーは軽い足取りで先へ行ってしまった。
すぐにタイラーの白い体は見えなくなり、気配も無くなった。

ど〜しよう!
タイラーァ、おいでぇ!タイラーッ!!来〜いっ!ピュ〜イッ!(口笛)

シーン・・・。
耳を澄ませても何も聞こえない。
え〜っ!?普段なら呼びが効いてすぐに駆け戻るのに、山じゃやっぱダメなのか!?
ナッシュを捜しに行かせようか?
捜せ、警察犬ナッシュ、失踪犬タイラーの捜索じゃ〜ぁ!
「へ?なになに??楽しそう〜♪それオイシイ?うん、やるやるっっ食べてみるっ!」

このままホントに見つからなかったらどうしよう・・・。
焦りながらもタイラーを呼びつつ先へ進むと、何のことはない、道の真ん中で木の根にリードを絡ませて苦笑いしながら座ってる白い犬。
ヨカッタあ〜!返事くらいしてよ、もう〜!心配したンだからア〜!

でも藪の中を駆け下りてって、険しい崖なんかで引っかからなくて良かった。
とても助けに行かれないようなトコはたっくさんある。
もう少しで「さよならタイラー」になっちゃうトコだったじゃん!?

タイラーを迷子にするくらいなら、一緒に坂を転んでも致し方ない。
それからは危ない場所でも気合入れ、両手で綱引きのようにリードを持ち、両足踏ん張ってどんな場所でもリードを放さなかった。
さすがに本犬も反省したらしく、引っ張ることもなく静かにそばに付き、一歩一歩私の足取りに合わせて歩いてくれた。

そんな真剣な場面に突如現れた、ノーリードの柴犬とミニチュアダックス。
よっぽど怪しかったのか、ギャンギャン吠え掛かられて襲われた私達。
いきなり、ミニチュアダックスに耳を咬まれたけど、タイラー、反撃せずにジッと我慢した。

小さい犬だからといっても吠えたり咬んだりしないよう、ちゃんと躾けをしよ〜ョね!
野山に放したい気持ちもよ〜〜く分かっちゃうけど、繋いで散歩しよ〜ョねっ!!
可愛い愛犬が「さよなら○○ちゃん!?」にならない為に・・・ね!