Vol.71

本栖湖遠征

鎌倉・材木座海岸は、海水浴シーズン真っ盛り。
海水浴エリアにはロープが張られ、9時〜5時の海水浴時間にはヨットやウィンドサーフィンは和賀江島寄りの端っこからしか海に入れない。

地球温暖化の影響なのか、昔に比べるとずいぶん狭くなってきているという海岸は、満潮時には1メートルくらいしか幅がないのではと思えるほどになる。
ウィンドの大きな道具は、それでなくても、浜に置いてると場所をとる。
週末ともなると、足の踏み場を探しながら歩く混雑ぶりだ。

それに今年の夏は暑さのせいなのか、チンクイが異常に繁殖したみたい。
チンクイとは、エビ・カニなど甲殻類の幼生で、刺されると痛いし、痒くなる。
全身刺されてお医者さんにかかり、数日間、寝込んだという仲間がいる。
もうちょっと涼しくなってからやろっかなぁ〜?

そんな弱気なことを考えていたら、湖へウィンドしに行こうという話が持ち上がった。
真水でのウィンドは、初めての経験だ。
参加表明者は、10人。
平均年齢50才、合計約500才の元気な中年ウィンドサーファー達だ。

一泊二日、週末を利用して、富士五湖の一つ、本栖湖へ遠征に行く。
もし風が吹かなくても、御殿場アウトレット、樹海迷子ツアー、サティアン詣で、運が良けりゃ湖の底に住むというモッシーにも会えるとか。
湖は、たとえ流されても必ず岸に着くから大丈夫というリーダーの保証付き!?

いつものとおり、膨大な量の荷物を3台の車に山盛りぎゅうぎゅうに積み込んで、いざ、早朝5時半には出発だ。
荷物が多いコトはいいコトだと、きっと信じているに違いない仲間達。
たとえそれが1泊二日であろうとも、存分に楽しむために手抜きは許されないのである。

コーナーでローリングする1号車と、重さでスピードが出ない3号車に挟まれながら、大した渋滞にも遭わず本栖湖に到着。
残念ながら曇りで、霧に隠れて富士山は不在だったけど、自然が豊富で空気がウマイ。
五千円札の裏に描いてあるとおり、そこにあるのは湖と道と山と虫。
そして森と湖に囲まれた、我らが泊まる1軒のブルーシャトウ!?な宿泊所があるのみだ。

湖にトイレは一つ、工事現場にあるような簡易トイレのぼっとん式。
深呼吸をして息を止め、気合と無我の境地で済ませる悟りを開くか、草むらか、湖で本能のままに自然と一体化するかの二者択一だ。

道路脇に車を止めて、ここでこの夏、暮すのかというほどの荷物を降ろし、手分けして次々セッティングしていく。
テントまで登場し、運動会も開くかと驚きながらも、後でその有難さが身に滲みる事になる。
本部席テント横で旗もパタパタ、ちょうどいい風の中、さっそく海とは違う湖水を試してみる。

真夏なのに富士山の湧き水なのか、ヒヤ〜ッとするほど低い水温。
2メートルも行くと、私なんか足が立たないくらい、すぐ深くなる。
真水だから海水と違って浮力がないけど、サラッとしていてべたつかない。
深さと透明度で、神秘的な色合いの湖水に引き込まれそう。
モッシーが出現したとしても、ここなら納得できちゃうね〜。

沖へ向かって乗っているのに、沖にも岸が見えてるという不思議。
周りを山に囲まれているから、風はガスティでクルクル方向が変わる。
いろんな地形にぶつかって入ってくる風なので、まっすぐ吹き込む材木座の南風とは違って私なんかには捉えるのが難しい。
そして時折入るブロウは狭い範囲で長く続かない。

愛用のデブ板・イージーライダーも楽だけど、それより一つレベルアップの板・エヴォリューションにも初挑戦してみた。
センターフィンがあるから、風上に上りやすく、乗りやすい。

去年、北風・オフショアの材木座でセンターフィンの無い板に挑戦したら、なかなか風上に上れず、上っても上った分だけ流されていた。
まだウェストハーネスがその本来の機能に気づかず腹巻だけに徹してた頃で、腕が疲れてしまって思うように岸へ帰れなくなり、ジェットでレスキューして貰った苦い経験がある。

イージーライダーに引き続き、エヴォリューションでもなんとかハーネスが掛かるようになり、私でもちょっびっとづつは進歩してるみたいだ。
一瞬、仲間達のいる岸へ向かってブロウを捉え、ストラップに足までは入らなかったけど、プレーニングの入り口を覗いた気がした。
私にとっては暴走と言うほどのスピードで走り、とってもいい気持ち。

いかんせん、体力がないからすぐくたびれ、2往復もするとちょっと一休み。
疲れるとすぐ簡単に沈したり、へにゃへにゃしちゃってしっかり乗れない。
同レベルの初級者が半数なので、みんなでとっかえひっかえ乗りながら、ちょうどいい具合に休憩タイムが取れるのだ。

なんだか雲行きが怪しいなぁ〜。山の天気は変わりやすい。
風がぴたりと無くなって、湖水に出ていた私は漂うばかり。
雷が鳴り始めたので慌ててセールを水に落とし、そのままボードの上に伏せて急いでパドリングで岸に戻った。

岸にいた人はみんなテントに駆け込み、バケツを引っくり返したような雷雨が通り過ぎるのをじっと待つ事になる。
ああ〜、テントがあって良かったねぇ。
さっきまで湖に浸かってたのに、何故か雨に濡れるのはみんな嫌いみたいだ。

30分経っても雨はやまず、さすがに諦めてウェットスーツの効力を確かめるようにテントを出て片付けを始める。
どうしよう、今夜の夕食はバーベキューなのにぃ〜ってみんな溜め息。
しょうがない、室内ガスレンジ・バーベキューで焼きましょう。

バンガロ〜でガンバロ〜なお泊りの夜は、男子部屋と女子部屋に分かれて、まるで学生みたいにはしゃぐ平均年齢50才。
それぞれの馴れ初めから結婚に至った青春時代の熱い恋バナを、端から順番に告白するという恥さらしをして大盛り上がり。
こんな年令でこんなスゴイ合宿に参加できるのも、ウィンドをやったお陰と感謝しつつ雑魚寝で爆睡したのでした。

翌朝、二日酔いのおじさん達の朝食には、もれなくビールが付いてきたとかワケわからん迎え酒をしながら、それでも辛そうにウィンドを堪能。
夕方には、また大荷物を荷造りして車に載せ、渋滞をかいくぐって鎌倉に帰ってきた。

帰りに寄ったお蕎麦やさんで、今日の材木座は何メーター吹いたのか真剣に確かめ合う連中。
充分、楽しんで帰るって〜のに、それでも気になるホームゲレンデ状況とは、恐れ入りました。
やっぱ、ウィン道とは、こうでなくちゃ究められないンでしょうね〜。