Vol.62

続・続・ナッシュに相棒!?

相棒が見つかンないまま、ナッシュの一匹暮らしは続いてた。
いや、一匹暮らしとは言っても、猫軍団は相変わらず元気に駆け回り、一つ屋根の下で暮してる。


「ナッシュは、さほどコワクナイ」と見極めた猫たちは、ナッシュの鼻っ面の前を悠々と歩く。
ナッシュも猫との生活にすっかり慣れて、うま〜く調和してやり過ごしている。

私はと言えば、ナッシュが可愛くて可愛くて、やはり溺愛路線に足を踏み入れ始めた。
ソファに上がらないナッシュをおいでおいでと呼び寄せて、肉球(ダダチャ豆のにおい)を嗅ぎながら、いちゃいちゃ一緒にアニマルプラネットを見る、これを至上の喜びとする。
普通はソファに上げない躾をするのに、なんという飼い主。

ガードドッグのコワモテ・シェパードが、いつのまにか、お子ちゃま扱いのでっかい愛玩犬へと変わっていった。
だって可愛いンだも〜ん♪

どっかにご縁があったら、もう一匹いてもいいかなという気持ちは変わらなかったけど、焦らずゆっくり構えて探そうと思い始めていた。
なにより可愛いナッシュが幸せであって欲しいし、ナッシュが一番大事だから。

お世話になってる獣医さんからお話があったのは、そんな我が家のことをよく理解してくれた上でのことだった。

「迷い犬がウチに連れて来られたンです。
骨と皮状態に痩せてるし、ノミとダニだらけで首輪はしていない。
駆虫と健康診断はしましたが、去勢はされていないオスの成犬。
トイレの躾けは、まるでできていないです。
保健所や警察、獣医仲間にも声を掛けて、飼い主さんを捜してるンですが、長く放浪していた様子から捨てられた可能性が高いです。」

ナッシュは、言うまでもなく他の犬と仲良くする犬ではない。まして「オスは嫌い」だ。
まず無理だろうとは思ったけど、獣医さんも保護場所が無くて困っておられた。
去勢手術を済ませたということだったので、取りあえずウチで預かってから考えようと、ナッシュを連れてワクチン接種がてらお見合いに行った。

会ってみると「アナタに会えてウレシイ〜!」と全身ヨロコビの、根っからの明るいコ。
狩猟に使われる、イングリッシュセッターという犬だ。

この犬種は猟に適さないコとか、猟期が終わったら次のシーズンまで飼うより新たに買った方が安いから等の理由で、捨てられるコトが多い。
後を付いて来られないように、足を銃で撃って山で捨てる人もいるそうだ。
近所のセッターちゃんは、半身に散弾銃の玉を何十発も受けて保護されたそうだ。

幸いこのコは、無事で健康だった。
ナッシュは早速ガウガウ吠え掛かったが、そんなのなァ〜んにも気にしないお気楽タイプの性格に、もしかしたら・・?と期待が生まれる。
一緒に近所を散歩してみると、全く躾が入っていないめっちゃくっちゃな散歩ではあるけれど、ナッシュよりは10キロ以上も小さい犬だから、こんなの楽なモンだと気軽に引き受けてそのままウチへ連れ帰った。

散歩で歩いてる間じゅう、足の動きと連動して尻尾はずっと振られてる。

くにゃくにゃあっちへこっちへと、まともに真っ直ぐ歩けないウナギ犬。
常にず〜っと動いてて落ち着きがないけれど、鳥と猫を見つけるとセット!して固まってしまう。

痩せて骨が浮き上がってる。でもすんごく運動能力の高い、燃焼系アミノ犬。
異常な食欲で、なんと朝、昼、おやつ、夕方、夜と5回の食事を要求。
水は今飲んでおかなくちゃ、今度はいつ飲めるか分からないからというような焦った飲みっぷり。
これは辛かった放浪生活からそうなってしまったもので、しばらくその要求に応えてやったら、安心と共に収まっていった。

ナッシュも始めはコトあるごとに吠えて威嚇していたが、だんだんに彼の存在を認めておとなしくなっていった。
もうだいぶ慣れてきたと安心し始めたある晩、部屋の中でお互いのリードを離して自由に遊ばせていた時、事件は起こった。

どっちが強いか試してみようぜィと、セッター君がナッシュに迫っていった。
ナッシュはヤダよォと避けていた。
しばらくそのやり取りが続いていたが、しつこいセッター君にとうとうナッシュがキレた。
ギャゥギャゥ喧嘩勃発!
咬み合って暴れまわり、腰の弱いナッシュの背中に機敏なセッター君が噛み付いたまま、2匹は階段を転げ落ちていった。

踊り場で止まった二匹を離そうとしても、しっかり咬み付いたセッター君はナッシュの背中にぶら下がり、引っ張っても叩いてもすっぽんの如く離れない。
最後は首輪を持って吊り上げ、鼻の穴を塞いでやっと離した。

ナッシュの背中を調べようと触ってみたら、手は血で真っ赤になった。
こりゃとにかく獣医さんに診て貰わなくっちゃと、電話する。
「たぶん縫わなきゃならない位の傷だと思う。」
「すぐ行きます!」

ナッシュの血を拭いて怪我の状態を見てみる。ところが痛がるけれど傷は見つからない。
セッター君は?と見ると顔が悲惨な事になっている。

目の上、鼻の周り、両耳、唇、いたる所が切れて血だらけだ。アレ?ナッシュの背中の血は、このコの血?

獣医さんも毛を掻き分けてよく診てくれたけど、ナッシュの怪我はどこにも発見できず。なんて頑丈な毛皮と厚い面の皮!?

それに比べて、喧嘩を吹っかけたセッター君の方が、それからしばらくは試合後のボクサーのように腫れあがった痛々しい顔で、しょんぼりと反省の日々を送ることになった。

ところであの喧嘩は、結局どっちが勝ったの?
背中を取ったセッター君か、怪我をさせたナッシュなのか?
まぁどっちにせよ、もうあんな喧嘩はコリゴリだというコトは、深〜く悟った二匹なのであった。

そしてセッター君には、めでたく「タイラー」という強そうな名前が付き、ナッシュには推定4才の全くタイプの違う、似てない弟ができたのだった。