Vol.60

合宿(後編)

遠浅で足が立つから、降りて歩いてまた元へ戻ろうとしてたら、カイトサーフィンの人が空からこっちへ向かって降りてきた。
カイトの大会があるそうで、練習してる人も多い。


カイトの紐とウィンドのセイルが絡まると危ないから、急いで逃げるけど、向こうもうまくコントロールできずにニヤミスだった。
カイトの手助けをする人が浜から駆け寄ってきて、叱ってる。

「ダメだよ、お姉さんに寄ってっちゃ危ないじゃないか!ごめんなさい〜!!」
お姉さんという言葉にすっかり気を良くした私は、満面のにっこりで「大丈夫ですよ〜♪」

いたるトコに日本語が溢れ、日本人だらけのここサイパンは、アメリカ版・熱海みたいだ。
海上で他の人の進路をジャマしちゃったなァと思って、
「すいませ〜ん、ごめんなさ〜い!」
と叫んだら、分かってくれたみたいで頷いてたけど、日本人ではなかったり。
逗子のスクールが来ていたり、材木座の他のお店の人たちが後から来たりでとても海外とは思えないのだった。

砂浜は材木座とは違って白く美しく、水は透明で底まで綺麗に澄んでいる。
海水は日本より塩分が強い気がする。

「エボシにやられたぁ〜!」
と言って、海から戻ってきた人がいた。
エボシとは、とっても恐いクラゲらしい。
小さな子供なら命の危険もあるとか。
最近でも2人くらい、ここで救急車のお世話になったらしい。
いるンだ、エボシが!

そうは言っても、どこにいるのか分からない相手だけに、避けようがない。
運だけが予防策か!?

日差しは強いけど、さいわい曇りが続いてたので、SPF30と50のローションで日焼け対策はバッチリだ。
これならムケムケになることは、まずないだろう。
南の島の紫外線は舐めちゃぁいけない。

海底のサンゴは、素足でジタバタしてると、簡単に怪我をする。
軟弱な足裏の私は、海ではいつも靴を穿いている。

材木座では、この靴でなんの問題もなく遊べてた。
ところがサイパンの砂は、サンゴの砂だからなのか、とっても粒が痛くてザラザラだ。
海水と砂で擦れて、足はひどい靴擦れになっていた。

そこに濃い潮水が滲みて、とっても痛い。
二日目から、テーピングだらけの足となった。
いかにも合宿でシゴカレてるといった感じで楽しいなっ!

来る日も来る日も風は吹き、昇格したボードとセイルは参りましたと返上し、また元の初心者セットを借りた私。
これなら楽しく遊べるの〜♪

あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、沖のリーフから外へ行くとジョーズも居るらしいから、遠くには行かないように〜っと。
最終日、午前中だけ乗って日本へ帰ると言う日が、私にとって一番のコンディションだった。

上手なみんなは、
「(風が)落ちちゃったねぇ〜。」
と、残念がる中、一人嬉々として乗りまわり、
「たっのすぃ〜い〜♪」
を連発していたのでした。

終わりよければ全て良し。
強い風に翻弄された後、弱まった風に気持ちよく乗れたことで、まるでうまくなったかのような錯覚に酔いしれ、帰り支度も大満足だ。

サイパンの空港では、アメリカの税関職員の方たちが大荷物の袋を全て開け、丸めたセイルを引っ張り出して調べ、パイプ状のマストの中まで懐中電灯で覗き、調べ上げた。
そんな面倒なことするなら、浜へ来てくれて荷造りを一緒に手伝ってくれればいいのにな〜。
私たちの手の豆と、体中の傷と痣を見れば、真面目なウィンドサーファーだってすぐ分かるハズ!

帰ってきたら材木座には、春一番が吹き荒れた。
テレビで天気予報が言っていた。
「海・山は大荒れの天気です。」

こうしちゃいられない、早く山にも行かなくっちゃ!