Vol.43

海岸

鎌倉・由比ガ浜の海岸に、海の家が建ち始めた。

去年の8月に引っ越してきた私は、6月っから海の家が建ち始めるということは頭になかった。
梅雨空、真っ最中の6月、海の家は急ピッチで建っていく。
なんたって、28日の週末には海開きするって話だもの、そりゃ〜急がなくっちゃ。

毎年建つ海の家は同じなのか、リサイクルっぽいちょっと歪んだトタン板が運び込まれ、じかに釘を打たないようにか?木の板でうまく押さえながら屋根を作っていく。
このテの海の家は、私が幼い頃の記憶にある昭和30年代と変わっていないンじゃないだろ〜か?ってくらい懐かしい。

おかっぱ頭の真っ黒日焼け少女が、毎週末通ってた海、京浜急行沿線の海水浴場にあった海の家の光景が思い出される。
真夏の日差しで焼けたトタン板、砂だらけの木の板とゴザ、麦わら帽子、ビーチサンダル、水中眼鏡、原色の浮き輪、魚捕り網、ラーメン、サイダー、アイスクリーム、かき氷、おでん。
それからウン十年が経ったけど、あんまり変わっていない海の風景。

去年の海の家では、半分くらいが昔懐かし昭和タイプで、半分くらいがおっしゃれ〜な、カタカナで書かなくちゃ似合わないようなウミノイエだった。
まるでハワイかどっかの南の島へ、バカンスに来たかっていうような、ビーチリゾートだ。
これで砂が白くて、海水がブルーに透き通り、サンゴでも拾えたらカンペキ!

惜しいかな、波打ち際にはワカメが打ち寄せられ、グレーの砂とそれなりの海水。
でも時々海岸では、綺麗なピンク色の桜貝が見つかるし、ジョーズの子分の小さいのや、ウツボ、誰かの笑顔みたいなエイの子供も打ち上げられてたりするのだ!

ぎょえ〜〜。

砂浜から海を見ていると海の中は見えないから、どんな生き物が住んでるかなんて考えないし、海の向こうはどこと繋がってるかなんて思いもしないけど、現実はスゴイのね〜。

この前は湘南のどっかの海岸に、鯨の死体が打ち上げられたって新聞に出てたし、数日前は海岸に、いくつも鳥の屍骸が落ちていた。
なんちゃって警察犬のナッシュは、匂いを嗅いで、おっかなびっくりへっぴり腰で、現場検証してた。
被害鳥家族なのか、カラスがギャ〜ギャ〜と叫んでナッシュに何かを訴えてたけど、いったいどんな事件があったンだ?

大きな切り株のような塊が流れ着いてたこともあった。
見慣れないこれにも、ナッシュは興味津々。
貝がたっくさんへばりついていて、棒で突っついたら、何故か青虫みたいなのがこぼれてきて、私は逃げた。なんで、海で青虫〜?

ボートが半分に折れて流れ着いてたこともあった。
乗ってた人は大丈夫なの〜?
そんな不思議な漂流物も、数日で見当たらなくなる海。
どこへ行ってしまうの?
誰かが片付けてくれるのか、海が飲み込んでしまうのか。

暖かくなるにつれて、週の初めの海岸はとてもゴミが多くなってきた。
花火の燃えカスが散乱し、飲み物・食べ物のゴミがそのまま置き去られてる。
ゴミ捨て場にもゴミが溢れ、トンビやカラスが荒らしている。

地元住民がどこからともなくビニール袋を持って現れ、黙々と海岸でゴミを拾っている。
漁師の奥さん風の人達も、当たり前のように慣れた様子で掃除している。
自転車に旗を立てたボランティアの人がやって来てゴミ拾いしている。
若い白人男性数人が横一列になって、海岸のゴミを拾っていったこともあった。
いろんな人達が様々な思いで、片付けている。
これから暑くなり、夏休みになると、海岸は毎日がこの状態になる。

でも今日は雨。

窓から外を見て、おしゃべり猫のポーが呟いた。

「あめう〜。」

惜しいっっ!?