Vol.36

アリス☆旅立ち

アリスの具合はだんだん悪くなっていった。

吐いて下痢P〜で犬のお医者さんに診て頂いたが、吐き気はなかなか治まらず苦しそうだった。
抱っこで点滴した。注射もした。薬も飲んだ。有難いことに、なんといつもの生活をしながらすべて自宅で治療して頂いたのだ。なんたる贅沢!私の時も是非お願いしたい。

さすがの食いぼけアリスも、吐いた後は食欲が無くなり、アリスから食欲を取ったら何が残る!?と心配したが、ぐったりしていた。
吐くと体力を消耗するし下痢も続いていたから、小さな体は衰えていった。

血液検査をしてみたら、かなり重い腎不全ということで、アリスは腎不全用の缶詰だけを食べることになった。
最初は食べていたけれど、見るからにまずそう〜。(ごめんなさい〜!)
やっぱりアリスも、「もうこれはイヤ〜」と、匂いを嗅ぐと後ずさり。

でも普通の食事を与えてはいけないと言われ、私はアリスとコンくらべをした。
アリスは3日間断食し、みるみる痩せた。
歩くとオムツが脱げるほどお腹が細くなった。痛々しかった。

私は悩んだ。

家族に意見を聞いた。動物好きな友人にも相談した。

「アリスの好きにさせてやったら〜?」
「私だったら、まちがいなくおいしいモノ食べさせて、家で楽に苦痛無く暮らして寿命を全うする方を選ぶ。」

「そ〜だよね〜っ!」私の気持ちもはっきり決まった。

あと1ヶ月か1週間か、アリスの寿命が残り少ないとしたら、好きなモノを食べさせてやりたい。それをアリスが望むならそのほうがシアワセだろうと。私も後悔がないだろうと。

治療してくださる獣医さんの考えもよく解る。
言われたとおりのコトをしなくちゃ、患者としてはイカンと思う。
でも生き物には、たとえ犬にだって、感情がある。
言葉を話せない動物なだけに、ツライ体になった今、なんとかその気持ちを汲み取ってやりたいと思うのが飼い主の最後の愛情になる。

吐き気が少しでも治まると、アリスは台所のいつもの場所に来て食事を待っている。
私は、獣医さんの言いつけにそむき、アリスの大好きなレバーを少し皿に入れて与えた。
アリスは皿を覗き込んで匂いを嗅ぐと、喜びに体を震わせながら一気に食べた。
その姿は目に焼きつくほど、嬉しそうだった。ず〜っとカラになった皿を舐めていた。
でも結局そのあと何度も吐いてしまい、もう二度と食べることは出来なくなった。

我が家に伝わる変なものに、光線治療器というシロモノがある。
昔の美容院でかぶったお釜みたいな、金属の丸いモノの中で、鉛筆のようなカーボンという墨を電気でジジジ〜っと燃やす。
その光を体に当てるとポカポカ暖かく、日向ぼっこのようなシアワセな治療器なのである。

これは怪我や病気の種類によって、きちんと当てる場所や時間、カーボンの種類が決まっているのだが、我が家は適当。勘が勝負である。
どんな怪我や病気でも、これをやれば不思議と治る!?
もちろんアリスにも毎日、光線治療を続けた。

吐き気や下痢、腎臓だから、とにかくお腹や背中へ光線を当てる。
ポカポカ幸せな治療だから、アリスもすぐに寝てしまう。
血行が良くなって、それだけでも良さそう。

往診してくれた犬のお医者さんも、
「おお〜、これは効きそうだァ〜。」

もう2〜3日が限度かなと思える頃も、光線治療で難なく過ぎて行った。
もう今夜がヤマだろうという日も、光線当て続けて乗り越えた。

勿論、医学の力が大きいし、アリスの体力・気力も強かった。
私達家族も、アリスが気をしっかり持つように、耳元で励まし続けた。
「アリス〜、可愛いね〜。ア〜リ〜ス、元気出せ〜。ご飯食べるか〜?がんば〜れっ!」
自分の足で立てなくなった時、アリスはとうとうあきらめたようだった。
私達も無理な延命は望まなかった。

アリスが育てた猫のタックンは、二日間、アリスに添い寝し続けた。
そしてタックン、他の猫たち、獣医さん、家族の見守るなか、静かに大きな伸びをして、アリスは16年の最後の呼吸を終えた。
その顔は、ホントに笑っていた。

寿命とはいえ、たとえ犬でもその喪失感はかなり大きい。
これだけ沢山の動物がいても、うんと数が減ったような気がする。
一日のリズムの中に、アリスの世話があって当たり前だったから。

私は二日間思いっきり泣いた。

友人たちは、口々にアリスを偲んで慰めてくれた。

友人たちがその喪失感を分かってくれたし、家族みんなで悲しんで、他の動物達がいてくれたおかげで、私はペットロスにならずに済んだ。
悲しさ・寂しさが無くなることはないけれど、月日が癒してくれるンでしょう。

これだけ愛したアリスだけれど、火葬もお墓もいらないと家族全員一致で決めた。
アリスが生きてるうちに充分愛情注げたし、後悔のない看病ができたから、骨やお墓にこだわりは全く無い。
だから市役所に電話して犬の登録抹消をしたときに係を聞き、その引取りをお願いした。
取りに来てくれた職員の人に、念のため尋ねた。

「あの〜、まさかゴミと一緒の処理じゃないですよね?」

「申し訳ございません。鎌倉市は施設がないもので・・・。」

こらえていた涙が溢れたけれど、「いいです、それでお願い致します。」やっと言った。
人も骨の粉を海へ流したり山へ撒いたりする時代。オレだってゴミと一緒で構わないと家族。ちょっと乱暴な気もするけれど、そこにお金かけてもアリスが喜ぶとは思えない。人間の満足よりも、他にお金使うべきところがきっとあるはず。考えてみたい。

亡くなってから数日、家の中をチャカチャカ歩き回ってたアリスの魂も、最近は感じられなくなってきた。
動物が先に逝って飼い主を待っているという場所、天国の手前にあるという虹の橋へ、アリスはもう旅立ったのかな。

私、まだまだそっちには行かないと思うけど、私のコト忘れずに、気長に待っててね〜!

そのうち必ず!行くからね〜。