毎月第2・第4木曜日更新 (連載の場合は続けて次週更新します)

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Vol.13 登って滑る
 

「富士山、行かな〜い?」
雪山の師匠が、誘ってくれた。
この季節に、富士登山?

「いやあ、湘南の海から浮かびながら富士山眺めてると、滑りたくなっちゃってさぁ〜。」
「犬も連れておいで〜。」
ええ〜、私にとってこの上ない大好物な、お言葉!
日帰りで遊んで来られるし、すごく楽しそう〜!行ってみよーっ。

早朝5時起きで、車に犬とボード類を積み込んで、海岸線をひた走る。
朝の空気の美味しいコト!
高速に乗ったら、あっと言う間に付いちゃって、こんなに近かったっけ?と、ちょっぴりサプライズ。
昔は、もっと遠くて、旅行だった気がするね。

そー言えば、東京の友人が鎌倉に遊びに来て、富士山が東京で見るよりずっと大きいと驚いていた。
大きいってコトは、近いってコト。
近いってコトは、なんてゼータクなコト!
こんなに簡単に、日本一の富士山に来られちゃうンだモンね。

車を止めて、犬も降ろす。
今日は、アレックスだけ連れてきた。
タイラーは山が大好きなンだけど、超寒がりだから、10分で震えだすと思って置いてきた。
雪が降った日、家の前で遊んだけれど、タイラーは嬉しくて雪球を食べ続けてゲリPになったし。

家の中のトイレシーツの上でしか、おしっこをしたことがないアレックス。
今日の長時間、果してどーするのか!?膀胱破裂する前にちゃんとしてくれよぉ〜。
念のためにと、トイレシーツ持参してきたので、地面に敷いて、ワンツーワンツーと号令掛ける。
この呪文は、犬がトイレしているときはいつも側で呟くもので、これを言われたらトイレしなさいというコマンドだ。覚えているのかは、はなはだ疑問だが。

人間の心配もよそに、あったりまえのコトのように、ぜーんぜんナニゲにおしっこしたアレちゃん。
「おおっ〜!えっらいね〜。できたねえ〜。すご〜いじゃん!良かったねえ〜。」大騒ぎである。

さて、いよいよ、これで安心して始められる。
スノボーウェアは家から着てきてる。
途中のコンビニではちょっくら恥ずかしかったけど、でもそんなオカシナ人は結構居る。
普通に日帰りで滑りに来る人って、この辺じゃあ多いのね〜。

スノボーシューズを履き、バッグにボードをくくりつけ、背中に背負って、手にはストック。
いざ出発!で登り始める。

ゲレンデじゃないから、リフトは無い。
その昔はあったらしいけど、風が強くてしょっちゅう止まってたらしい。
地熱がここ数年高めらしくて、雪解けが早い。
五合目辺りにはまったく雪が無い。
でも見上げる山頂は真っ白だ。

すぐそこのように見える山頂だけど、今日は目指さない。
近くに見えても遠いのだ。
横にコブのようにある双子山。
上が兄貴で下が弟、その兄貴を目指して登ってみる。

じいーっと目を凝らすと、何人も登ってる人や滑ってる人が、蟻んこのように動いてる。
その小ささから、この山の大きさを思い知らされる。

最初の30分、足が重くて前へ進まず、息が切れてとってもツライ。
休み休み、一歩一歩ゆっくり歩く。
その横を、思いっきり笑いながら走り廻るアレックス。
一番先頭まで走り、また後ろまで駆け戻り、みんなちゃんとついてきてる?とチェックし、忙しくまとめてる。
そーだ、アレちゃん、シェパードって羊の番をするのが本来のお仕事だから、私たち羊の群れを守ってくれてるつもりなのかも?

考えてみれば、山登りって初体験だ。特にこの富士山は、一度も登らぬバカだった。
良かった、コレで一度は登れたのだ。

足元は、溶岩の砂と雪で、白と黒の模様を作ってる。
この辺は木が生えてないので、見晴らしが良い。
他にも犬をお供に登ってる人たちがいる。
スキーしてる人も居る。

休み休み、何時間登っただろうか。
ふと振りかえると、眼下に見える他の山々。
酸素は薄いけれど、神聖な空気の味がした。

「さて、この辺りから滑って降りよっか。」
師匠の合図でボードを履く。
積雪はほとんど無い。
雪のあるトコを選んで行かないと、進む道が無くなりそうだ。

一人ずつ滑り降りる。
一歩一歩自分の足で登った道を、一瞬で滑り降りるこの贅沢。
コースを誤って、砂の上を滑ったりしながら、楽しく降りる。
側には、これまた走り廻るアレックス付き。

アレックスも大変な運動量だ。
いったい何往復したのやら。
でも犬と滑れるこの贅沢は、ゲレンデじゃ味わえない、最高の楽しさ。
前に回りこまれてスノボーで轢かないよう、手にはストックを持って犬を防ぎながら滑る。

車に戻ると、一緒に登った仲間がラーメンを作ってご馳走してくれた。
こんな美味しいラーメン、今まで食べたこと無かった。

一息ついていると、背中にスキー背負い自転車を押して登ってきた青年が現れた。
「ちょ、ちょっと〜!自転車で来たの〜?」
みんなで取り囲んで質問攻めにする。

夜中に山頂目指して登り、朝一に滑り降りる計画なンだって。
その後、自転車で鎌倉まで帰るというその青年、デスクワークな職業には必要ない無駄な筋肉とからかわれていたが、いやはや世の中、いや、<湘南!>には凄い人がいるモンだとオドロキました。

※次回の更新は5月11日(木)です。お楽しみに。