Vol.85

雪山・挑戦・神のいる山(前編)

 遊びの達人に、「スノボー行こうよ!」と誘われた。
ここ13年、通ってる素晴らしい山があると。
人生で出会う10の感動的な景色に、必ずランクインするほど美しいトコだから是非見せたいと。
初心者でも大丈夫だよとの言葉に乗せられて、二つ返事でOKしたその山は八甲田山。

アレックス育てに追われてるとは言え、いくらなんでも今期初すべりじゃマズかろう。
足慣らしに1日、苗場から憧れのドラゴンドラで行く田代で滑ってみる。
日ごろ良いコな私は、雪に恵まれ、パフパフ新雪ウッヒョ〜ィ!でハジケる。

八甲田では、ゲレンデじゃない山の中を滑るので、新雪らしい。
圧雪されたゲレンデとは滑りもまったく違うから、田代でもなるべくコースの端っこでその感触を試してみる。

フワフワの新雪に踏み込んだとたん、ボードは音が変わり、重力から解放されたかのような浮遊感に包まれる。
オクターヴ上がった声を出さずして、この快感は表現できない〜♪

よし、滑りはバッチリだ!
イメージトレーニングもカンペキだ!!
ハヤる気持ちを抑えつつ、ウキウキワクワク、羽田に向かう。

八甲田雪中行軍・湘南部隊は、総勢6名。
おじさん4名、レディ2名!おじさんの中には、日本語が話せない英国紳士も混じってる。
平均年齢は50才前後の、元気な遊びの達人軍団だ。
東北の難しい言葉の国へ、アルファベットが飛び交う珍道中が始まった!
 
青森空港から乗り合いタクシーという名のマイクロバスで走るその道は、街中でも驚くほどの雪の量。
30分も走って山に入れば、道路の両側は、雪の切り立った高い壁。道は雪で真っ白だ。
これなら車が滑っちゃっても、ぶつかっちゃっても雪の壁にぶつかるだけだから安心かもね〜!?

宿泊場所は、アットホームな雰囲気のプチホテルな山荘。
愛想よく出迎えてくれたワンコとご挨拶し、「いいコですね〜。何て名前ですか?」とご主人に聞くと、「今朝、警察の人が連れてきたばかりで、名前はまだ無いンです。あんまり良い犬なので殺しちゃうには惜しいから、飼わないかって。」

さっそく同行の英国人Rさんが、命名。
忠犬のハチ公と、ここは八甲田だし、ハチはどお?
なぜか、五郎もくっつけて、八五郎にしようとご主人。
朗らかな八五郎と、優しいご主人の人柄に、犬バカな私は既に着いたばかりの玄関先で高得点を付けている!

さっそく荷物を開き、滑りの準備を始める。
ゲレンデとは違い、新雪用のスタンスにバィンディングを付け替えてもらう。

「寒いからイッパイ着込んでね〜。」
ん〜、でも北海道くらいの気温だよね〜?

広い八甲田スキー場には、リフトもあって自衛隊の人たちがスキーの練習をしているが、そこは「タノシクナイ」とのコトで、午後から山のルートツアーに挑戦するコトにする。
タノシクナイというのは、傾斜があって難しいのとコブコブな為らしい。
私にもそういうトコはまるでタノシクナイ。

午後のツアーまで時間があるので、まずは友人たちとスキーコースを1本滑って足慣らしすることに。

ロープウェイで頂上に上がるのだけど、山には売店もレストランもない。
もちろん、おトイレも無いらしい。
「ちょっと、お花を摘みにィ〜。おほほほほぉ〜♪」って林の奥に消えるらしい。
寒風吹きすさぶ大自然の雪の中、森の動物になったみたい?スリルを伴うおトイレだ。

ロープウェイから眼下に見下ろすそこには、絵葉書のような美しい雪景色が広がる。
始めて見た本物の樹氷が、オブジェのようにいろんなポーズをとっている。

バスで観光に来たおじいさん・おばあさんたちも、ロープウェイで山頂に登っていく。
その横で、銀行強盗でもできそうなくらい年令も性別も人相も分からないような完全武装のスノボースタイルに身を包み、板を片手に乗り込む私達。
シゲシゲと宇宙人を見たように注目されるけど、それは私達がカッコ良いから?
それとも年令がバレてあきれてる??

山頂に降り立つと、気温は更に下がり、冷たい風が厳しく体に当たる。
吹雪の北海道でも滑ってるから、これくらいはへっちゃらだいっ!

足元の雪を、一掴み握ってみる。
うわさに聞いたパウダースノウは、握っても雪球にならずに手袋の指の間をパラパラと落ちていく。
おお〜っ!
聞きしに勝る、まさにサラサラの新雪だ。
期待とやる気で、板を履く手に力が篭る。

バチンッ、バッチン!
よっしゃ〜ぁ。行くぞぉっ!

「左側にオレンジ色のポールが点々と立ってるけど、それ以上、左に行くと沢に落ちちゃうから行かないようにね。オレンジのポールを見失うと迷子になるから、気をつけてね。」
リーダーの言葉に、後を必死で付いて行く。

結構傾斜がきつい上、深い新雪。
コース幅は狭く難しいので、私なんかズリズリと、得意の木の葉落としで降りるのが精一杯。
やっと少し傾斜が緩くなり、広くなったからと滑り降りてみれば、いい加減な乗り方が祟ってコロンコロン転がっていく。・・・でも痛くなあ〜〜い♪
これがゲレンデスノボーとは違うってコトなんだ!

コースが圧雪されてないから、自然のままにでこぼこがあって当たり前。
樹氷の周りは穴になってるから、近くには行かないようにしないと穴に嵌る。
落ちると這い出るのが大変そうな深い穴だ。
傍に行かないようにと、木を見ていると、どんどん近くに寄っていってしまう。

転ぶと新雪は柔らかいから、手をつくとズボズボ埋まってしまって起きるのが一苦労。
柔らかい雪に刺さった板はなかなか出てこないし、変な格好に埋まってる。
そのまま横に転がったりして反動つけて、よっこらシャキッ!と跳ね起きる。
それだけでも大汗もののスゴイ運動量だ。

息は弾み、汗ダクダクになっていく。
燃えろっ、体脂肪っ、おりゃあ〜!とばかりに、頑張るが、1本滑っただけで充分満足、ごちそうさまでしたという疲労感が押し寄せた。

でも山荘に戻り、お昼ご飯を食べたあと、今度は午後のツアーが始まった。
ガイドさん達に連れられて、山頂駅からさっきとは違うスキールートに挑戦する。