Vol.56

風邪ニモ負ケズ

今年もやっとスノボーの季節がやってきた。
暖冬で、雪の便りは遅れたけれど、お正月が過ぎればさすがに山は雪。
昨シーズンはアリスの老犬介護をしてたから、ホルダーには1月の連休のリフト券が入ったままで終わってた。
今年は行くぞォ〜!
さっそく、遊びの達人夫婦がこの連休に万座へ誘ってくれた。

渋滞覚悟の連休だから、早朝5時に出発する。
友人夫婦の車に乗っけて貰い、横になって寝ていってと、枕とお布団を渡される。
車で寝る習慣があまり無い私だったけど、これがやってみると実に幸せ。
早朝の寝不足がすっかり癒される。

今年はお正月の来客が終わって、やれやれと気が抜けたとたんに、風邪をひいた。
微熱と喉の痛み。約束のスノボーが迫ってくるのに、果たして行かれるのか微妙な体調。

薬をたっぷり持参して、祈るような気持ちでの参加となった。
ダメなら温泉入って、寝てればいっか〜。
参加者4人とも免許持ってるから、私の運転は一番最後の隠し玉って事にして貰って、安心してお布団を被る。

気が付けば車は、もう雪道を走ってる。
ウキウキ、わくわく、今年の初滑りは大丈夫かな〜?
雪は良さそうだから、まずは一安心。
アイスバーンだけは、ご勘弁だ。

お昼には、ゲレンデへ立つ。
充分にストレッチしてから、小手調べは、ゆっくり安全に滑ってみる。
う〜ん、へっぴり腰だなァ〜、ケツ出てるって言われるなァ〜。
でもシーズン初としては、まあまあかなァ。
覚えは悪いけど、意外に忘れてはいないモンだ。

さあそれから、2時間はぶっつづけに休みなく滑り続ける。
走ってる間は、ちょうどいい体感温度、でもリフト前のスケーティングで汗をかく。
リフトに座ると、弾む息で「たっのすぃ〜♪」が連発で出てくる。
そしてまた滑っては、「たっのすぃ〜〜♪さっいっこぉ〜!来て良かったぁ〜。」。
雪遊びは、おばさんを簡単に子供に変える。

たっぷり汗かいて、心肺機能を活発にしまくった一日が終わる。
部屋に入ってここで落ち着いたら、絶対に寝てしまう。
そのまますぐに温泉へGo〜!

万座の温泉は、とってもクチャイ。
山には硫化水素とやらが噴出してるトコがあるンだそうで、迷い込んだら、野生動物や人もそのガスにやられて死んじゃうらしい。

お風呂場でも換気扇が廻っていて、そのガスの排出の為と書いてあった。
だからこのクチャイ温泉は、とっても成分が濃いと思われる。
毛穴から、いろんな薬効がジワジワ滲み込んで来るのが感じられる。
思わず、お腹の底から大きな溜め息がこぼれてしまう。
ウチにこの温泉があったら毎日が幸せだねぇ〜。
でも体臭が万座臭になっちゃうか?

室内風呂は、窓の外に大きなつららを眺めながら。
そして、露天風呂は雪の中。
これぞ究極の寒さとあったかさの絶妙なバランス。
でも慣れない温泉成分に、早くも湯当たり気味な私は、サッサと上がる。

湯上りのとろけそうな心地よい疲れの中、体が半分くらい睡眠を始めているにも拘らず、バイキング夕食に取り掛かる。
消耗した分と言い訳しながら、あれこれ食べられる贅沢に舌鼓を打つ。
そして翌日の為にも、おじさん・おばさん達は、素直に速攻就寝となる。

翌朝、外は吹雪。右から左へ向かって真横に雪が降っている。
こんな強風の天候では、リフトが止まるのではと心配するも、「これくらいでは止まりません!」との頼もしいお言葉に、張り切る面々。

最強の防寒組み合わせウェアに身を固め、何よりウレシイ新雪に風邪で枯れた声が裏返る。
雪が良いと、2割り増しくらい上達した気になれる。
圧雪してないトコを滑る醍醐味は、スノボーならではの特権だ。
スキー板では味わえない、なんとも言えない不思議な浮遊感。

でもちょっとバランス崩して倒れると、雪まみれで大汗かくことになる。
転んでも全然痛くないから、一人笑いで大騒ぎしながら、脱出に5分くらいは掛かる。
これが雪遊び、童心に帰れるスノボーの楽しさだ〜。

夕方、一日を満喫して足もヨロめきながら、ゲレンデに別れを告げて温泉へ。
汗を流し、再び大きな溜め息で薬効を染み渡らせて帰途に着く。

路上はアイスバーンだから、スタッドレスタイヤでもチェーン装着。
いやァ、楽しかったねぇ〜っと走り始めたとたん、右のタイヤに不吉な音。
車を止めて見てみれば、チェーンは切れ、どこから現れたのか見覚えのないゴム製三角コーンが車の下に潜り込んでる。

そばの駐車場にそろそろと車を戻し、とっぷりと日が暮れた雪の中でジャッキアップ。
コーンの救出と、切れて絡まったチェーンの取り外しという難しい作業を応援、見守る。
どんな困難も乗り越えられないものはない。
運と人生経験は身を助ける。

かくして路上に迷う狸君に見送られながら、片足チェーンで無事に凍結道路を下山。
雪山珍道中は笑いジワと筋肉痛、そしてホノカに香る万座臭をおみやげに帰宅したのでした。