Vol.23

デキタ!

長いことタバコを吸ってきた。

美大は喫煙者だらけだったし、女性が歩きタバコなんてしてない時代から、綺麗な美大生のお姉さん達は粋にそれをしていた。創作活動にタバコは欠かせないものだった。

早くに亡くなった父親の、数少ない思い出に、手のヤニの匂いがあった。
いつもタバコを吸っていた器用な父が、ピースの空き箱で作った鍋敷きが遠い記憶にある。
80才まで元気で働いていた祖父は、缶ピースを吸っていた。確か両切りっていう、フィルターなしのタバコじゃないだろか。お酒とタバコをず〜っと愛して長生きできる言い訳にしてきた。

でも自分で吸いながらも、女性のタバコを吸う姿は、品が良いとは思えずにいた。
それでもタバコを覚えたら、ズルズルと何十年も続けていた。

途中、子育てで禁煙していたが、子供が育ってしまうとまた吸い始めていた。
タバコの匂いや味が好きだし、悪習慣とは思いながらも、そんなにヘビースモーカーじゃないから、ま、イッカと思っていた。

私の先祖は、みんなガンで亡くなっている。
それを知った息子は、執拗に私に禁煙を迫り始めた。
私もまだ死にたくはないけど、タバコは好きだし、とずるずる延ばしにしてはいた。

それが引越しを期に自ら禁煙することを、決意したのだ。
理由は簡単。
壁紙が汚れているのを見て、引っ越した先の壁もすぐにこうなるのかとイヤになったのだ!

肺の中は、も〜っと真っ黒だぞと脅されたけど、肺は見えないし見たことないから判んない。
都会に暮らしているンだから、ど〜せ車の排気ガスで肺の中は汚れてる。
でも壁紙が茶色になるのがイヤだからタバコを止めようと考えた!

買い置きのカートンがなくなったところで、もうタバコを吸うのをオシマイにした。
禁煙じゃあない。
「オ・シ・マ・イ!」にしたのだ。
禁じられて、後ろ髪を引かれつつ、止めざるを得ないというのは、辛さがあって苦しい。
そこが違う。
自分からオサラバしてやるのだ。

高い税金払って、煙と灰にしてる。
タバコと火をいつも忘れず持ち歩かなくちゃいけない。
吸殻入れも持ち歩かなくちゃいけない。
残りの本数を見て、次を買っておかなくちゃならない。
禁煙の場所が増えたから、吸える場所を探さなくちゃいけない。
たとえ吸える場所でも、周りの人の迷惑を考えなくちゃいけない。
嫌煙権という時代の流れから、喫煙者の肩身は狭くなってる。
飛行機内で、長時間タバコを我慢しなくちゃならない。
服や髪に付く匂いと歯の汚れに気をつけなくちゃいけない。
家の壁紙を汚してる。
そして自分の健康を害してる。

これらの全てを、今まで何十年も毎日欠かさずやりつづけてきたことに対して、専売公社から感謝状が欲しいくらいである。こんなに熱心に続けたことって、他にはそうそうないンじゃないだろか?

ニコチンが切れるってことは、とっても苦しく、辛く、イライラすると思ってた。
確かに以前に禁煙した時は、そうだった。
でもきっとそれは、禁煙しなくちゃならないというヤラサレ感から辛かったンだと思う。

今回、タバコを吸うことを、自分の意志で止めてみたら、
「え?こんなに簡単なの?」
と、いうのが実感である。

ニコチンが切れて、アタマがボ〜〜っとしてきても、これでドンドン体が浄化されていくと思うと、妙に嬉しかった。
清々しい開放感が何よりも先立ったのである。
タバコに関するモロモロの煩わしさから、開放されたのだ。
ニコチンの呪縛から、逃れられたのである。
止めてすぐ、目の前で吸われていても全然大丈夫だった。
ゲンキンなもので、「まだタバコの奴隷になってるンだ、可哀想に・・・」とさえ思えてしまった。

体が覚えた習慣から、起きて一服、食べて一服、の欲しい瞬間は日に何度も来た。
でもニコチンがタバコを要求するのは、3日間くらいまでで、あとは精神的な依存だけ。

そんなものは簡単にコントロールできる。
なんせ、あんなにた〜っくさんの煩わしさから、開放されるンだから。
またタバコを買って吸おうなんて、これぽっちも思わない。
そしてたとえ気の迷いだろうが、貰いタバコの一本でも吸ってしまったら、また元通り吸いつづけるタバコの連鎖が始まってしまうと、心に強く思っておく。

タバコを吸わないコト。
これがタバコを止める何よりの方法。
吸わなきゃ止められるのだから。
こんなにあっさり止められるのだったら、お茶断ち同様、何か祈願しておけば良かったかなァ〜。
モッタイナイことした。

でもタバコを止めたご褒美は、みんなが誉めてくれる事。
止めなくちゃと思って吸ってる人は、「よくできたね〜!エライ。」と身を乗り出してくる。
自分には、できっこないと思っている人は、「良いンだもん、好きな事やって死ねたら本望」なんて強がり言いつつ羨ましがってる。実は私がそうだった。止められるとは思ってもみなかったのだ。

タバコは法律で許されてはいるけど、この習慣性は麻薬じゃないだろか。こんなモン、やたらに売って良いンだろうか。タバコは止められないと思わせてるのも誰かの策略じゃあないだろか。

体には毒だって言うし、子供は吸っちゃいけないと法律で決められているから、よけいに大人ぶりたい子供は吸ってみたがる。
海外で買うタバコはとっても高く、500円や1000円もするそうだ。
日本もウンと税金取っていいから、子供に買えないくらい高く、お金持ちだからいっぱい税金払ってタバコを吸ってるンだっていう高額にしたらいいンじゃないかナ。そしたら喫煙者は尊敬されるかも。

シャネルやベンツのタバコは1万円〜!一本一本にブランドのマーク入り。その代わり、高い分だけ体に良いタバコになる。高麗ニンジン入りとか、ローヤルゼリー配合、流行りのマイナスイオンとか。

「おタバコお吸いになられますか?」

レストランで店員さんに聞かれて答えた。

「止めましたァ〜♪」